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ペイン・コントロール(鎮痛処置)
ペイン・コントロール(鎮痛処置) 近年、「動物の痛み」に対する飼い主さまの理解が徐々に深まり、私たちのところへも「手術の際は、痛み止めの処置をしっかりと施してほしい」、「なるべく痛くないようにしてあげたい」などといったご要望やご意見が、数多く寄せられるようになってまいりました。動物たちに対する“思いやりケア”として、今やペインコントロールは必須の治療アイテムとなってきています。
ここでは、動物の痛みというものがなぜ生じるのか、それをブロックするメカニズムなどを、カンタンにお話ししたいと思います。

■動物は痛みを感じていない、という大きな誤解・・・

抜歯をしたにもかかわらず、翌日から食欲旺盛なワンちゃん、骨折しているのにノドを鳴らしてすり寄ってくるネコさん・・・。ときとして、私たちですら「この子、痛くないのかなぁ~?」と、首をかしげることがあります。ところが、科学的には動物たちも、ヒトと同じような痛みを感じる神経系のシステムが完璧に備わっていることが明らかになっています。

痛みは、ストレスや精神的に不安定な状態によって増幅します。注射される際に針先がせまってくると、さらに痛みが増してくるように感じるのはこのためです。ヒトは、痛みを感じたときには「痛い、痛い」といって大騒ぎし、顔をしかめたり手足をかばったりしますが、動物たちは痛みの受け取り方はもちろん、その表現方法がヒトとは若干異なるため、痛みの兆候を見分けるのが難しいことがあります。すなわち、痛みを感じたときには、パンティング(あえぎ)呼吸をしたり、冷たいところにフセをしたり、足先を舐(な)めてみたり、また、身体のどこかに触れただけでふり向いたりといった行動をとるだけのことがあるのです。私たちからみれば、こんなことが「動物はガマン強い」、あるいは「痛みを感じていない」と感じる理由なのかもしれません。

■痛みの伝わり方

動物の身体のすみずみには、刺激を受け止める「受容器(じゅようき)」というものが存在しています。受容器は「レセプター」ともいい、刺激を受け止めて“痛みのスイッチ”をいれるところです。動物に痛みの刺激が加わったとき、刺激を受けた場所(皮膚表面、身体のもっと深いところ、内臓など)の受容器では、痛み刺激が電気信号に変換されます。この信号は、神経線維を通じて脊髄(せきずい)に入り、大脳皮質(だいのうひしつ)まで伝えられます。大脳皮質ではこの“痛み情報”を認識し、この情報を最初に刺激を受けた場所に戻します。これを「投射」といいます。
つまり、針で刺されたときは「その場所が痛い」のではなく、いちど情報が大脳まで伝わり、投射されて刺された場所に戻り、「痛い!」と感じるのです。

■ 痛みのもとってなに?

痛みには「急性痛(即時痛)」と「慢性痛(遅発痛)」がありますが、急性痛とは、前述したような、針を刺されたときのような痛みのことです。ここでは“痛みのもと”である「発痛物質」が関与する慢性痛についてお話しします。
(☛だんだんと難しくなりますが、がんばってついてきてくださいね♪)

組織が損傷すると、炎症メディエーターとよばれる生理活性物質が産生(遊離)されます。炎症メディエーターはその名のとおり、患部に炎症をひき起こして痛みを発生させ、しばしば痛みの受容器の感度を増幅させます。カミソリで指を切ってしまったとき、受傷直後よりも時間が経ってからのほうがズキズキと痛むのは、このせいです。
多くの鎮痛剤は、主要な炎症メディエーターのひとつであるプロスタグランジン(PG)の働きをブロックして、痛みを抑制します。もっと正確にいえば、「PGを合成する酵素」の働きをブロックするのです。このPGを合成する酵素を「シクロオキシゲナーゼ(COX、コックス)」といい、その作用分担機序から、2種類のCOX(COX1、COX2)が存在することがわかってきました。この頃から、消炎鎮痛剤の研究は新たな展開を迎えることになります・・・。

PGの「炎症をひき起こす作用」は、もちろん“悪い作用”ですが、一方、PGには「細胞を保護する」という“良い作用”も持ち合わせており、悪い作用をもつPGを合成する酵素だけをブロックすることが鎮痛剤研究の課題となっていました。前述のCOX1は“良い”PGの産生に関わり、COX2は“悪い”PGの産生に関わっていることを、どうか覚えておいてください。

■「○○は、胃にやさしい」・・・COX2阻害薬

ここで話は変わりますが、「バファリン®は胃にやさしい」という有名なキャッチコピーがあります。その優れた特徴が医薬品のキャッチコピーとなるように、昔から鎮痛剤は、その副作用として消化器症状(潰瘍)を起こしやすい・・・とされてきました。いままでの鎮痛剤は、COX1もCOX2も同時にブロックしてしまうため、COX1が関与する“良い”PGの胃粘膜に対する細胞保護効果まで阻止してしまいます。ところが最近の鎮痛剤は、COX2のみを選択的にブロックし、いままでの鎮痛剤にありがちな消化器障害をできるだけ軽減するような特徴を有しています。
ここ数年、動物医療の世界にも、多くのCOX2阻害薬が導入され、動物にやさしい「痛みのコントロール」が可能になってまいりました。

■手術の際も・・・ペインコントロール!

手術は、人為的に動物を“傷つける”操作です。 手術の際は、全身麻酔を施して動物は不動化(動けなくなること)されますが、この間も痛みの受容器や自律神経系は「スイッチON」の状態になっています。もちろん、手術中に動物が痛みを感じることはありませんが、手術が終わって麻酔が切れると、動物は例外なく痛みを感じるようになります。

最近は、「先制鎮痛(せんせいちんつう)」といって、手術前に鎮痛剤を投与し、麻酔から覚めたあとでも痛みを感じさせない方法が主流となってきています。実際に手術の前後で適切なペインコントロールを行った動物は、手術後の回復がとても早いのです。具体的には、手術翌日から活発に動くようになり、食餌も自ら、早い段階でとれるようになります。
ベルノス動物病院でも、①手術前の早い段階、②手術中、③手術後の適切な時期に鎮痛剤を使用し、動物たちが痛みから解放され、快適に病気療養ができるよう配慮しています。また、マルチモーダル鎮痛といって、数種類の鎮痛剤を組み合わせ、それぞれの鎮痛剤の長所をいかし、短所を相殺しながら、副作用の軽減を図るような方法も取り入れています。

ペインコントロールについての詳細は、お気軽にお問い合わせください。