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エトセトラ

子宮蓄膿症(Pyometra)

フィラリア予防 ◆子宮蓄膿症は、私たちが日常よく遭遇する生殖器系の病気のひとつです。この病気は、イヌ、ネコ、ウサギ、フェレット、ハムスターなどで見られることがありますが、やはり圧倒的に多いのが、ワンちゃんの子宮蓄膿症です。これは、単純に「子宮外口部からバイ菌が入り込んで子宮内に膿(うみ)が溜まる病気」と思われがちですが、じつは、ホルモンの分泌や免疫が複雑に絡み合って発症することがわかっています。

◆発情期を迎えたワンちゃんは、エストロゲンというホルモンの作用によって発情出血が起こります。このとき子宮内では、子宮頚管(しきゅうけいかん:子宮の膣に近い部分)が開き、精子の上向き移動を助けるような運動が活発になります。この運動は、バイ菌の侵入にとっても好都合で、大腸菌、ブドウ球菌、連鎖球菌などのバイ菌群は、この流れに乗って膣から子宮内に侵入し、じっと発症の機会をうかがいます。

◆発情後期から休止期に入ると、今度は黄体ホルモンの一種であるプロゲステロンというホルモンが分泌されるようになり、子宮内膜を着床準備へと導きます。このときの子宮内膜の変化は、バイ菌の増殖に最適な環境となります。さらに、プロゲステロンの分泌にともない、マクロファージという免疫細胞の活性が低下し、子宮粘膜のバイ菌に対する感受性(影響の受けやすさ)は増加します。こうして、子宮内でバイ菌が増殖と死滅を繰り返しながら、膿(うみ)となってゆくのです。
  • どんな症状が現れるのでしょうか?
  • いちばんわかりやすくハッキリした症状は、陰部からの膿性(のうせい)あるいは血様(けつよう)の“オリモノ”です。ただし、オリモノを排泄しない閉塞性の子宮蓄膿症も少なくありませんので、注意が必要です。このほか、この病気が徐々に進行してくると、食欲不振、元気の消失、多飲多尿(たいんたにょう)、嘔吐などの症状がみられます。そして、治療のタイミングを逃してしまうと、細菌の毒素(エンドトキシン)によって各臓器が障害され、最悪の場合、敗血症性ショックとなって死に至ります。
  • 診断はどのようにして行うのでしょうか?
  • 病状にもよりますが、ある程度進行した子宮蓄膿症の診断は比較的カンタンで、稟告(りんこく:症状を聞きとること)、臨床症状、血液検査、レントゲン検査、超音波検査などによって、総合的に診断することが可能です。ただし、初期の場合は、粘膜子宮や子宮腺の増殖、子宮内膜症などの前段階にとどまり、診断に手間取ることも少なくありません。
  • どんな治療法があるのでしょうか?
  • 治療は大きく分けて、内科的な方法と手術による外科的な方法があります。
    【内科的治療】
    内科的な方法は、点滴によってワンちゃんの水和状態や電解質組成を補正するとともに、抗生物質の投与、エンドトキシンに対する治療などを行います。また、PGF2αというホルモン剤を投与し、子宮を収縮させることで陰部からのオリモノの排泄を促し、同時に黄体を退行させて子宮内環境を整え、バイ菌の増殖を抑制する、という方法が行われることがあります。しかしながら、これらの方法によって治癒(ちゆ)したように見えても、数カ月くらいで再発することもあり、確実な治療法とはいえない面があります。
    【外科的治療】
    手術によって子宮と卵巣を“丸ごと切除”するため、再発しないという意味では最も確実性の高い方法です。ただし、例外なく全身麻酔を施さなくてはならないため、病状が進行した動物ではある程度の麻酔リスクがあることを、飼い主さまにご理解いただく必要があります。
    手術は、通常の避妊手術と異なり、子宮内の膿(うみ)を極力、お腹の中に落とさないよう、細心の注意をはらって行われます。一般的に、手術後の経過は手術を早期に行うほど良好で、肝臓や腎臓などの臓器障害、エンドトキシンの影響が軽微なものであれば死亡率は少なくなりますが、肺水腫や「DIC(播種性血管内凝固)」という複雑な病態をたどるものもあり、この場合の予後は、とても厳しいものになります。
    したがって、飼い主さまがワンちゃんの異常にいち早く気づき、私たちに早期にご相談いただくことが、治療を成功させる何より大切なポイントとなります。

アトピー性皮膚炎(Atopic Dermatitis ; AD)

近年、多くの動物たちが屋内で過ごすようになり、ヒトとの距離がグンと近づいてまいりました。換言すれば、動物の生活そのものの“ヒト化”が進んできたということになるのでしょうか。それにともない、以前なら見られなかった、いわゆる現代病といえるものが増えてきているように感じます。その代表格が、アレルギー性皮膚疾患のひとつであるアトピー性皮膚炎(AD)です。 一般的に、アレルギー性皮膚疾患といわれるものの中には、ADのほか、「食物アレルギー(FA)」、「接触性アレルギー性皮膚炎」などがありますが、ADとFAを同一のものとして混同されている飼い主さまが多いようです。

◆ワンちゃんのアトピー性皮膚炎(AD)は、ハウスダスト、花粉、ダニ、真菌などの環境抗原が体内に侵入することで、軽度から重度のかゆみや炎症を引き起こします。以下、AD発症のメカニズムを簡単にご説明します。

◆動物の体内に細菌やウイルスなどの病原体(抗原)が侵入すると、免疫機能が働いて「抗体」という中和物質が産生され、これらの抗原を排除しようとすることはご存知かと思います。 同じように、環境抗原であるハウスダスト、花粉、ダニ、真菌など(これらを“アレルゲン”といいます。)の侵入によって、体内では特定のアレルゲンに対する「IgE抗体」が産生されます。このIgE抗体の産生が過剰になると、肥満細胞(←笑ってしまうような名前ですが、太っている動物と関連している訳ではありません・・・。)と呼ばれる細胞にIgE抗体が結合し、さらに、アレルゲンの作用によって結合体が形成されると、肥満細胞はヒスタミンやサイトカインと呼ばれる生理活性物質をさかんに放出します。これがADにおけるかゆみや炎症の原因となるのです。つまり、ADは「過剰な免疫反応の結果、発症する病気」といえるでしょう。

◆一度“アレルギーのスイッチ”が入ってしまう(感作されてしまう)と、そのアレルゲンにさらされている間は、つねにかゆみに苦しむことになります。そして、そのかゆみは季節による差はあれ、恒久的に続くことになります。 一般的に、ワンちゃんのADが初めて発症する年齢は、3才くらいまでとされています。

◆これに対し、食物アレルギー(FA)は、離乳期に摂食した食べ物(食物たんぱく)による影響が大きいとされています。すなわち、離乳期の未成熟な腸の粘膜がたんぱく質を十分に分解できず、これによって過敏症が発生すると考えられています。FAは、その原因物質を食べ続けている間、つねにかゆみや皮膚の病変を引き起こします。

【ADとFAの違いは?】
ADの環境抗原であろうと、FAの食物抗原であろうと、何らかの原因物質が体内に侵入してかゆみを引き起こすということに変わりはありません。しかしながら、「環境抗原に対してIgE抗体の上昇を認めたものをAD」、「食物抗原に対するIgE抗体とリンパ球反応が認められ、(以下にお話しする)除去食試験で反応がみられたものをFA」とする考え方がもっとも正しいようです。(←他にもさまざまな考え方や定義があります。) 上記のIgE抗体の測定やリンパ球反応検査は、外注検査で実施可能です。

【FAに対する除去食試験とは?】
FAと診断するためには、現在与えているすべてのフードを中止し、アレルゲンフリー(アレルゲンを含まないフード)の除去食のみを与えます。最低1.5~2カ月間、最大で3カ月間、これを続けてかゆみが消失または低減するかどうかを観察します。(反応が早ければ、3週間程度でかゆみが低減します。)これは、ワンちゃんと飼い主さま双方にとって、とても根気のいる食事制限トライアルとなります。この間、他のフードやオヤツ類は、いっさい与えてはいけません。 症状が改善したら、今まで与えていたフードやオヤツ類を1種類ずつ与えていきます。(これを「負荷試験」といいます。)このとき、もとの症状が再現された場合、FAであると診断します。

【ADの治療について】
■多くの場合、ADが完治することは、残念ながらありません。使用する薬剤の副作用にも注意しながら、かゆみや炎症をいかに低減し、ワンちゃんのQOL(生活の質)をどれだけ高めてあげられるかが、治療のポイントとなります。
■多くのワンちゃんは、皮膚のバリア機能が失われ、細菌や真菌の感染を同時に患っていることが多いので、これらの治療も同時に行います。また、シャンプー療法は皮膚表面のアレルゲンを洗い流し、皮脂の量を整えますので、かゆみの低減に役立ちます。
■ADの治療に用いる薬剤は、かゆみや炎症を抑えるための副腎皮質ホルモン剤(いわゆるステロイド剤)、皮膚の感染を抑えてかゆみを低減させる抗菌剤や抗真菌剤、ステロイド剤の使用量を減らす目的で用いる抗ヒスタミン剤や必須脂肪酸製剤、皮膚表面を清浄化し、皮脂の量を調節するための薬用シャンプーなどです。このほか、長期的な効果を期待してγ型インターフェロンを用いることもあります。なお、副腎皮質ホルモン剤や抗菌剤などは、内服薬ではなく外用薬(スプレータイプなど)として使用することもあります。
■そして近年、「アトピカ」という新しいタイプのおくすり(免疫抑制剤)が使われ始めています。「アトピカ」は、過剰な免疫の働きのみを選択的にブロックします。その使用法については特別な注意とアドバイスが必要となりますので、当院までお問い合わせください。

下部尿路疾患(Lower Urinary Tract Disease;LUTD)

■「あれっ?トイレの姿勢を何回もするけれど、オシッコが出ていないみたい…」、「何だかオシッコが赤くない?」・・・あなたのワンちゃん&ネコさんにそんな症状がみられたら、要注意です!

■「LUTD(Lower Urinary Tract Disease)」は、“特発性膀胱炎”や“ストルバイトあるいはシュウ酸カルシウムなどの尿路結石(または尿道栓子)”などにともなう尿路系トラブルの総称です。
LUTDになると、排尿困難、頻尿(ひんにょう:オシッコに何回も行くこと)、血尿、トイレ以外での排尿、腹部の痛み・・・などの症状がみられます。かりに、尿道結石などでオシッコが完全に出なくなってしまいますと、48時間以内に治療を開始しなければ、早急に死の転機に向かうとされています。

■LUTDの原因は多岐にわたりますが、不適切な食餌(食事)、ミネラル類の過剰摂取、飲水量の低下、排尿機会の喪失、細菌による尿路感染、ストレスなどがこれにあたります。

■ベルノス動物病院では、前述のような症状のワンちゃん&ネコさんに対し、 まず最初に尿検査を行い、膀胱炎の程度や血尿の有無、尿路結石(多くは“結晶”という微細な形でみられます。)などを調べます。
オシッコが1滴も出ていなければ、自然排尿による尿検査そのものが不可能ですので、レントゲン検査やエコー検査によって、排尿を妨げている結石があるかどうかの確認、場合によってはオシッコの出口(尿道口)から「カテーテル」という細い管(くだ) を挿入して、“詰まり”がないかを確認します。膀胱までスルスルとカテーテルが入っていけば、「詰まりがない」と判断します。

■詰まりがなければ、尿検査(←適切な方法で採取した尿の細菌培養を含みます)の結果にしたがい、内科的な治療を開始します。
内科的治療は、抗生剤、止血剤、鎮痛剤、抗炎症剤、ごくまれに抗うつ剤などを単独で、または組み合わせて使用します。ここで忘れてはならないのが、特別療法食の存在です。特別療法食は、尿のpH(酸性・中性・アルカリ性)を調整して結石または結晶を溶かし、また、飲水量を増やす優れた作用を有してい ますので、LUTDでは必須の治療アイテムとなります。
◇尿道口から挿入したカテーテルが途中で入って行かなくなった場合、詰まり (尿道結石または尿道栓子)があると判断し、尿毒症という危険な病態を回避するため、ワンちゃんの場合は「いったん結石を膀胱に押し戻す処 置」、ネコさんの場合は「特殊な機器(超音波尿道チップ)を使って尿道栓子を破砕する処置」を行います。
これらの処置は、ワンちゃん&ネコさんに軽度の麻酔や鎮静をほどこすことで、安全に行うことができます。カテーテルが膀胱内に挿入できるようになったら、“カテーテルを入れっぱなしのまま”固定し、次の段階へと進みます。
◇ワンちゃんはその後、膀胱内に押し戻した結石の数量をレントゲンやエコー検査によって精査し、「膀胱切開術(Cystotomy)」や「膀胱に入れた生理食塩水による水圧推進法」で結石の除去が可能かどうか、慎重にプランニングしていきます。
ときに、もっと上の部分、すなわち腎臓や尿管(腎臓でつくられた尿を膀胱へ運ぶ細い管)に結石が存在していることもありますので、注意が必要です。
◇ネコさんの場合は、超音波尿道チップによる破砕処置のあと、膀胱内を数回洗浄し、その後、①カテーテルを抜いて経過観察とするか、②カテーテルを留置したまま入院させ、治療を継続するか・・・病状をみながら飼い主さまとご相談のうえ、決定していきます。
ただし、LUTDは症状の再発が多い病気ですので、①の場合は「次の日に、また尿が出なくなった」ということもあり、飼い主さまにその旨をご理解いただかなくてはなりません。

■治療を成功に導くために、ワンちゃん・ネコさんともに、さまざまな「リスク要因」を極力排除しなくてはなりません。これらの多くは、①環境改善、②食餌管理、③尿検査・画像検査を含む定期健診によって達成可能なものばかりです。

■LUTDについては、本稿で集約できないほど多くの知見がありますので、ご来院時に、個々の病状に合わせてご説明をさせていただきます。

慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease;CKD)

8才以上のシニア世代になると多くみられる“慢性腎臓病(CKD)”。
とくに、10才を超えた高齢のネコさんでは、約30~40%がこの病気に罹患しているといわれています。ここでは、おもにネコさんのCKDの病態生理から治療法について、わかりやすく(←しかし長文ですが…)まとめてみました。

■腎臓は何のためにある?
動物が生体活動を行うとき、さまざまな老廃物や不要物(ゴミ)をつくり出します。たとえば、動物の身体をクルマにおき換えてみましょう。クルマが走り続けると、エンジン内にカーボンが堆積(たいせき)したり、有害な排気ガスを発生させたりしますが、これらはすべて不要な老廃物となります。そのため、エンジンオイルを定期的に交換してカーボンを取り除いたり、排気ガスを車外に排出してクルマの不調を防いでいるわけです。
動物の体内でつくり出された老廃物も、本来はすみやかに浄化させたり、体外に排泄させたりしなければなりませんが、これらはいったん血液中に入り込みます。そして、血液中にこれらの老廃物が徐々に蓄積されてくると、身体にとってさまざまな有害反応を引き起こすことになります。そのために、血液をつねにキレイな状態にしておく「ろ過装置」が必要となってくるわけです。
汚れた血液をろ過して、キレイになった血液を体内に戻す“ろ過装置”が「腎臓」で、 左右に2つ、ソラマメのようなかたちで存在しています。血液のろ過以外にも、腎臓はさまざまな役割を担っているのですが、ここでは省略します。

■オシッコってそもそもナニ?
食べた物は「便、ウンチ」という“カス”となって、体外へ排泄されます。それではオシッコは、ジュースやコーヒー、ビールなどの“飲み物のカス”なのでしょうか? 確かにたくさん飲んだ日は、オシッコが近くなりますよね?じつは、オシッコの正体は飲み物のカスなんかではなく、血液成分なのです。これについては、次項で触れてみたいと思います。

■血液のろ過とオシッコのでき方
老廃物をタップリと蓄えた“汚れた”血液は、腎動脈を通って“ろ過装置”である腎臓に入り込みます。腎臓内ではさらに細い血管に入り込み、最終的に汚れた血液は、「糸球体」という毛細血管の塊に行きつきます。糸球体は「ボーマン嚢(のう)」という袋で覆われており、このボーマン嚢の中(ボーマン腔)で汚れた血液のろ過が行われます。老廃物が取り除かれてキレイになった血液は、腎静脈を介して再び全身に戻され、体内はつねにリフレッシュされることになります。
通常、ろ過というと「ろ紙の上にゴミが残って、キレイになった液体が落ちていく」というようなイメージがありますが、腎臓の場合は真逆で、キレイなものが残り、ゴミが排泄されていきます。これを“選択的ろ過”といいます。選択的ろ過をされた老廃物は、糸球体毛細血管から滲み出た血液成分(←「原尿」といい、これがオシッコのもとです。)とともに、ボーマン嚢から続く「尿細管」に排泄されます。尿細管は、目に見えないくらいのとても細い管で、腎臓の外に排泄されるまでの尿の通り道となります。
糸球体の毛細血管、ボーマン嚢、尿細管などの構造物を、まとめて「ネフロン」といい、これが腎臓の機能単位となります。腎臓はネフロンの集合体であることを覚えておいてください。

■濃縮と再吸収
オシッコは飲み物のカスなんかではなく、原尿とよばれる血液成分であることはおわかりいただけたかと思います。
この原尿がつくられる量は膨大です(←ヒトでは1日につくられる原尿の量は150~200ℓともいわれています)が、これがそのまま体外に出るわけではありません。もしそうなら、私たちは1日に何百回もトイレに行かなければなりません。じつは、尿細管の中を通っていく原尿の中には、身体にとってまだまだ使えそうなものがたくさん含まれており、これらはリサイクルのために再吸収されます。そして、オシッコは尿細管内で濃縮されながら、なんと99%(!)ものリサイクル率を達成しながら身体の中へ戻っていきます。そして、残った1%が本当に要らないものとなって、腎臓の外に出ていくのです。
腎臓の外に出たオシッコの通り道は「尿管」と呼ばれ、左右に各1本ずつしかない比較的太い管です。そして、尿管の先にはご存知、オシッコをためておく袋「膀胱(ぼうこう)」があります。尿管は、腎臓と膀胱をつないでいます。

■CKDでどんな症状がでる?
「最近、お水を大量に飲むようになった」、「食べているのに痩せてきた」、「食べ物をよくもどす」などが、飼い主さまが最初に気づくCKDの症状です。このほか、口臭や消化器症状(下痢、便秘)、毛並みの悪化、貧血などがみられることもありますが、ほとんどの症状は非特異的で、CKDで必ずみられる症状とはかぎりません。
CKDは、一部のネフロンの破壊から始まります。ある程度のネフロン破壊が起こると、残ったネフロンに過度の負担がかかり、これらも疲弊してしまいます。社員が大量に辞めてしまった会社を想像してみてください。残された社員は、今までの何倍もの仕事量をこなさなければならなくなり、ついには、これらの社員も潰(つぶ)れてしまいます。
こうして加速度的に破綻(はたん)していったネフロンに、もはや老廃物をろ過する力は残されていません。そして、汚れた血液は“尿毒症物質”となって身体中をぐるぐると巡り、前述のような臨床症状を呈することになります。

■CKDの診断
ある程度進行したCKDの診断は、じつはそれほど難しくはありません。動物の年齢、臨床症状、ていねいな問診と身体検査(腎臓の触診を含む)によって、獣医師はCKDを容易に疑います。CKDを疑ったら、まず最初に血液検査を行うことになります。このとき、すでに全ネフロンの75%以上が破壊されていると、尿素窒素、クレアチニンという代表的な2つの項目に上昇変化がみられます。この2項目の数値がどれだけ上昇し、今後どう動いていくかが、予後を見極めるためのゴールドスタンダードとなります。しかしながら、獣医師がこの時点でCKDを診断できたとしても、すでに全ネフロンの75%以上が破壊されているわけですから、あまり喜ばしいことではありません。
それでは、CKDは相当進行しないと診断できない病気なのでしょうか? じつは、かなり前の段階でCKDを予見できる検査があります。いちばん簡単な検査の筆頭は、やはり「尿検査」でしょう。尿検査によって蛋白尿の発現や尿比重の低下、円柱という構造物がみられると、すでにCKDの初期か将来的にCKDに移行する可能性がきわめて高いといえます。また、「尿中蛋白クレアチニン比(UPC)」という比率を求めることで、腎臓の組織学的ダメージを推測することが可能です。
そのほか、近年、腎機能のバイオマーカーである「対称性ジメチルアルギニン(SDMA)」というアミノ酸の代謝産物を測定することで、早期にCKDを発見できる検査系が確立されました。SDMAは、前述のクレアチニンが全ネフロンの75%以上が破壊されたときに上昇するのに対して、30~40%程度のネフロン破壊で上昇することがわかっています。ある報告によれば、クレアチニンによるCKDの診断よりも、1~2年も早く発見できたとされています。したがって、この1~2年の間に適切な治療をほどこすことで、病気の予後を大幅に改善できる可能性があるのです。
ほかには、画像診断として、レントゲンやエコー検査が必要となる場合があります。

■病気のステージ分類
CKDのステージ分類については、国際的な科学評価機関である「IRIS(アイリス)」(※)による病気分類アルゴリズムが確立されており、重症度に応じてステージ1からステージ4まで分かれています。前述のクレアチニン、SDMA、尿中蛋白クレアチニン比のほか、収縮期血圧(いわゆる“高い方の血圧”)の程度に応じてステージ分類され、それぞれのステージにおける推奨治療法も明示されています。あなたのネコさんがどのくらいのステージにあるのかは、かかりつけの獣医師におたずねになってみてください。(※)International Renal Interest Society

■心腎連関(しんじんれんかん、Cardiorenal Syndrome)
近年、医療従事者の間で、「心腎連関」という言葉が盛んに使われるようになってきました。元来、心臓と腎臓は密接な関係にあり、お互いに助け合っている…という考え方です。たしかに、腎臓は全身の水分調節を担っており、水分過多や脱水による心臓への負荷を軽減しています。逆に、心臓はそのポンプ機能によって腎臓に十分な血液を送り、その機能を保持させています。心不全が進行してくると、心臓からの血液拍出量(血液を送り出す力)が低下し、腎臓でのろ過機能に必要な適正血圧や血漿量が不足してきて、腎臓が機能障害に陥ることはよく知られています。

■血圧との関係
それでは、腎臓と血圧の関係はどうなっているのでしょうか? 難しい専門用語がたくさん出てきますが、しばらくお付き合いください。(何だか意味がよくわからない…という方は、この項、とばしてお読みくださっても結構です。)
生物学を学んだ人や医療従事者であれば知らない人はいない、超有名な「レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)」・・・。これは血圧や細胞外液量の調節を担う、とても重要な体内のホルモン分泌システムですが、CKDによってネフロンが破壊されてしまうと、残されたネフロンは代償性に(←つまり、与えられた仕事を完遂しようとして)RAASを活性化させます。
これによって、腎臓からレニンという蛋白分解酵素が分泌され、レニンによって肝臓や脂肪細胞から分泌されるアンジオテンシノーゲンからアンジオテンシンⅠへの分解と変換を促進します。さらに、アンジオテンシンⅠは、アンジオテンシン変換酵素(ACE)の作用によってアンジオテンシンⅡへ変換されます。アンジオテンシンⅡは、血管を収縮させて血圧を上げる作用をもち、同時に、腎臓でのろ過機能を担う「糸球体」内部の圧も上昇させます。
このとき、アンジオテンシンⅡの作用によって、副腎皮質から副腎皮質ホルモンのひとつであるアルドステロンが分泌され、アルドステロンは、腎臓内の尿細管におけるナトリウムの再吸収を促進します。ナトリウムが吸収されると同時に水分も吸収され、体内は水分過多の状態になります。この状況もまた、血圧上昇の原因となります。




それでは、血圧が上昇すると腎臓にとってどんな悪影響があるのでしょうか? 糸球体内部の血管に圧がかかってくると、その圧によって血管内皮細胞が傷害をうけ、糸球体硬化を引き起こします。このような現象が加速度的に起こってくると、いよいよCKDの入り口に立つことになり、一層のモニタリングが必要となってきます。つまり、CKDのネコさんは治療中も血圧のチェックとコントロールが欠かせない、というわけです。

■治療
CKDの治療法は多岐にわたりますので、①食事療法 ②薬物療法 ③輸液療法 ④その他の治療法 に分けて解説します。
① 食事療法
CKDの食事管理は、十分な水分摂取、リンと蛋白およびナトリウムの制限、体内の酸性化を防ぐためのアルカリ化剤の添加などがその基本となります。今日では多くのペットフードメーカーから良質な専用の特別療法食が販売されており、これらを使うのがもっとも安価で効果的です。
② 薬物療法
【薬用吸着炭】 多孔質の薬用炭(←消臭用の活性炭のようなものとお考えください。)を経口的に投与することで、体内の尿毒症物質を吸着して、便として体外に排泄します。CKDの早期から使用することで、病気の進行を大幅に遅らせることが可能です。ほかのおくすりと飲みあわせる場合は、薬効成分まで吸着してしまうため、時間差で投薬することが必要となります。
【リン吸着剤】 体内のリン(P)は、カルシウム(Ca)と結合して腎臓の石灰化を引き起こします。さらに、PとCaは体内でシーソーのような関係にあるため、高P血症になれば低Ca血症となり、これは上皮小体という部分からPTH(Ca量を増加させるホルモン)の分泌を促すこととなり、尿毒症症状をさらに悪化させることが知られています。したがって、食事中のPを制限もしくは除去することは、CKDの進行を抑えるために必要な治療となります。リン吸着剤は、特別療法食を食べてくれないネコさんに対して、ふだんの食事に混ぜて使用することもできます。
【ACE阻害剤&AT1受容体阻害薬】 これらは2つとも、ネコさんのCKD治療薬として認可されており、血圧をコントロールすることを目的として使用されます。CKDの動物で、なぜ血圧をコントロールする必要があるのかは、前項をお読みになってみてください。ACE阻害剤は、アンジオテンシンⅠからアンジオテンシンⅡへの変換をブロックし、AT1受容体阻害薬は、アンジオテンシンⅡタイプ1受容体(アンジオテンシンⅡが作用する部分のひとつ)を阻害するおくすりです。
【プロスタサイクリン誘導体製剤】 日本で開発された、もっとも新しいCKDの治療薬です。これは、血管内皮細胞保護作用、血管拡張作用、炎症性サイトカイン産生抑制作用、抗血小板作用をもち、腎臓の虚血や繊維化を抑制します。ステージ2~3のCKDのネコさんに対して、きわめて高い効果が認められています。
③ 輸液療法
前述したように、腎臓は体内の水分調節を担っているため、CKDによって脱水症状が進行していきます。腎臓では尿を濃縮する力が失われ、比重が低い(つまり、水のように薄い)尿が大量に排泄されます。こうして体内の水分はどんどん失われ、動物の身体は皮膚の弾力性を失い、目が落ちくぼんで“干からびた”状態になっていきます。脱水状態になると循環血液量も減少するため、腎臓への血液供給も滞り、さらなるCKDの進行をきたします。
軽度~中等度の脱水症状であれば、「皮下補液」といって、肩甲部の皮下に大量の点滴液を入れて(注射して)対応できますが、重度であれば、静脈からの点滴が必須となります。この場合は、輸液ポンプを用いてゆっくりゆっくりと入れていきます。(←この場合、例外なく入院が必要となります。)
④ その他の治療法
【腹膜透析】 「腹膜透析(PD)」とは、本来、尿として体外へ排泄されなければならない老廃物(尿毒症物質)を、ネコさんの腹膜を介して腹腔内の透析液中に移行させ、透析液とともに回収&除去する方法です。
具体的には、おなかに開けた小さな穴からカテーテル(細い管)を挿入して皮膚に固定し、カテーテルを通して腹腔内に温めた透析液を注入します。1~6時間後に透析液を回収し、ネコさんの病状や血液検査の結果をみながら同じ処置をくり返していきます。つぎにお話しする「血液透析(HD)」にくらべて特殊な設備が不要で、手技に慣れればご自宅でもできる治療法ですが、やっかいな問題も存在します。それは、(1)遅かれ早かれ、カテーテル(あるいは専用のデバイス)が目づまりを起こすこと。(2)入れた分の液量が回収できなくなること。(3)カテーテルを介して腹腔内に細菌が混入すると、腹膜炎のリスクが高まること。(4)皮下に透析液が漏れてしまうおそれがあること。(5)低アルブミン血症や低カリウム血症が起こりやすいこと。などです。
【血液透析】 「血液透析(HD)」は、ヒトの透析療法で行われているように、専用の血液透析システムを用いて尿毒症物質を含む血液を浄化する方法です。
ネコさんの静脈(多くはくびの血管=頸静脈を使用します)にカテーテルを留置し、脱血して透析回路の中を通します。この回路の中には、ダイアライザーという人工透析膜(人工腎臓)があり、これによって血液を浄化します。そして、キレイになった血液を再び体内に戻していきます。
デメリットは、(1)専用の装置と透析回路の設置(ブラッドアクセス)が必要であること。(2)ブラッドアクセス設置のため、最低1回は動物に麻酔をかけなければならないこと。(3)20~60mL程度の回路内への脱血が必要となること。(4)飼い主さまに時間的・経済的負担がかかってしまうこと。などです。
残念ながら、この治療を行える施設は限られています。
【腎移植】 腎移植は、今もって大学病院などの高度医療施設でのみ行われている治療法であるといえます。1984年にアメリカで初めての臨床成功例が報告されてから、いまだ一般の動物病院に普及していない状況を考えると、ドナー(臓器提供動物)確保とその倫理的な問題、移植した腎臓に対する拒絶反応の制御の難しさ、手術のリスクと高額な治療費などがその普及を妨げているのかもしれません。「地域ネコを捕まえ、腎臓をひとつもらって飼いネコに移植し、2頭とも大切に飼育した。」というお話を耳にしたことがありますが、私たち獣医師のところにも、腎移植についての最新の情報はほとんど届いてきておりません。
移植された腎臓の多くは、3年程度で慢性の拒絶反応による血管病変を起こし、腎虚血に陥ってグラフト機能を失うといわれています。内科的治療によってもある程度進行したCKDの緩解期間は数ヶ月~数年ですので、その期間差を飼い主さまがどうお受けとめになるかは、非常に悩ましいところです。

◆以上、CKDの病態生理から治療法までをお話しさせていただきました。本稿で述べた以外のことについては、他のサイトを参考になさるか、かかりつけの獣医師の先生におたずねいただければ幸いです。